都心の便利なエリアに位置している公営墓地ブログ：19年05月14日
引っ込み思案な息子だったあたくしが、
小学５年生のときに、学芸会の劇の主役を演じることになった。
それはあたくしにとって、大きな事件だった。
「絶対見に行くからね！」
いつも明るいママが言った。
あたくしが世界で一番喜ばせたい相手がこのママであった。
当時、我が家は裕福とは言いかねる状況でしたが、
それでも父とママは一生懸命働いて、
あたくしたち兄弟三人をどうにかこうにか育ててくれていた。
当日、あたくしは熱演した。
ダンボールの帽子を被り、
思春期の入り口に差し掛かった息子には少々照れくさい
「泣く」という演技もこなした。
家に帰るなり、
ママが「すっごく良かった！あんたが一番上手だったよ！」と、
それはもう手放しで絶賛してくれた。
しかしその24時、
年子のお兄ちゃんの言葉によって、あたくしは事実を知る。
「一番上手！」どころか、
ママはあたくしの「熱演」を見てもいなかったのだ。
お兄ちゃんは学芸会の運営委員で、
体育館の戸口を開閉する係をしており、
あたくしの出番の時は、お兄ちゃんもママを待ち構えていたのだが…
「幕が開いても母さん来なかった。
お前の出番が終わって、幕が閉じてる最中にあわてて入ってきたんだよ」
ママの居ないところでお兄ちゃんは言った。
あたくしはがっかりした。
先生にでも級友にでもなく、ママに捧げた演技だったのに…
見てもらえなかったことは悲しかったが、
ママへの失望や怒りは沸いてこなかった。
ただ、
いつも物を入れすぎて
不格好になっている仕事用の鞄をブラ下げ、
息をきらしながら、
慌てて体育館に向かっているママの姿が浮かんだ。
仕事をこなしながらも
きっと１日中あたくしのことを考え、
精いっぱい調整して、それでも間に合わなかったのだ。
ママこそ、本当は泣きたかったに違いない。
「熱演」をしたのはママの方だったのだ。